自律訓練法とは?
「自律訓練法」は1932年、今からおよそ90年前にドイツの精神科医ヨハネス・ハインリッヒ・シュルツ(Schluz,J.H.)博士によって考案された、心身の症状に苦しむ患者さんたちのための心理・生理学的な心理療法(セラピー)です。
この心理療法を適切に行っていただくことで、心身がリラックスするために必要な心的・生理的なプロセス、そして脳内の休息状態を体験していただくことができます。
この心理療法の特徴は、ご自分の言葉の力によって「副交感神経」が活性化するような状態を何度も繰り返し練習するという点です。標準訓練は何段階かに分かれた練習から成り立っていますので、必要に応じてそれぞれの技術をお伝えしていきたいと思っています。
この心理療法は、大脳生理学者オスカー・フォクト(Osker Vogt)博士によって開発された大脳生理学の理論を基づいて開発されています。
「自律訓練法」のなかでも、わたしがお伝えしているのは「自律神経系のバランスを整える効果」があるということが実証されている「標準訓練」の部分です。
この心理療法は、ドイツにおいては「ストレス緩和法」として一流のビジネスマンやプロのスポーツ選手、学生からお年寄りにいたるまで、世代や職業を問わず幅広く活用されている心理療法です。
その一方、心身症(自律神経失調症)、うつ状態やパニック症候群といった心療内科や精神科の医師が治療として活用しています。日本においてはドイツと異なり保険がききませんが、一部の心療内科で行われています。
私が行う心理療法においては「自律訓練法」を「ストレス緩和法」としてお伝えしていきます。これを継続していただくことで、ストレスや老化によって衰えていく「副交感神経」をトレーニングしながら育て、交感神経と副交感神経のバランスを取り戻していくことを目的としています。
このトレーニングによって、心身の体制を、エネルギーを消費する「活動型」から、エネルギーを蓄積し、回復を可能にする「休息型」へ切り替えるポイントを再生させていきます。
自律神経トレーニングについて
セッションでは「自律訓練法」のなのかの「自律神経をトレーニングする部分」をピックアップしてお伝えしています。
内容は「自律訓練法」のなかの「標準練習」の部分に相当します。
【自律神経トレーニング:標準練習】
初回のセッション
初回では次の(1)と(2)を練習し、ご希望の方に録音データをお渡しいたします。それを数週間、自宅で1日3回練習していただきます。
- 体内を内観する練習(マインドフルネス瞑想):ウォーミングアップ
- 自律訓練法:背景練習「静寂のための瞑想」:気持ちを落ち着かせるための技術
次のセッション
初回の練習が心身に定着してきたら、次に脱力する練習、リラックスするための練習をはじめます。ご一緒に練習した後、家で練習をしたい方には音声データをお渡しいたします。これを数週間、自宅で1日3回練習していただきます。
- 自律訓練法:標準訓練Ⅰ「重感練習」:手足から緊張を取り除くための技術
次のセッション
「重感練習」によってリラクゼーションができるようになり、ご希望があれば、血流をアップさせるための「温感練習」を始めます。練習したのち、ご希望の方には音声データを差し上げています。
- 自律訓練法:標準訓練Ⅱ「温感練習」:毛細血管をゆるませ拡張するための技術
以上3つの段階が、ドイツにおいて「自律神経のトレーニング」とされている部分です。
ここまで習得できた方で、ご希望があれば次の練習を続けることもできます。
- 自律訓練法:標準訓練Ⅲ・Ⅳ「呼吸と脈拍のための練習」:より深い呼吸、脈拍を調えるための練習
- 自律訓練法:標準訓練Ⅴ「額を涼しくするための練習」:頭寒足熱の状態を作るための練習
- 毎回セッションの前半において、日常生活におけるストレス状況を確認していきます。ストレスに対して感じる様々な感情の変化に気づき、各トレーニングを重ねていくことで、「副交感神経」が育つにつれて、ご自分で自分の心身の状態を少しずつコントロールすることが可能になっていきます。
ご自分で、現状に対処できている、ストレスマネジメントができていると確認できた時点で自律神経トレーニング(標準練習)は終了となります。
標準練習のセッションを終了された方へ
- この技術を身につけることができれば、一生涯これを使い続けることができます。
- 練習をつづけていくと、理想的な状態になるのに少しずつ時間がかからなくなっていきます。30秒ぐらいで、血流を良くするところまでレベルをあげることも可能です。
- 副交感神経は、ストレスだけでなく、老化によっても衰えていくことがわかっています。健康寿命を延ばすためにも、この練習を習慣にしていただければ幸いです。
- この練習は、健康回復と同時に、生活の質をあげる効果があります。「副交感神経」のスイッチを自由自在に入れることができる「もう一つの新しい神経回路」を育てていくことで、ご自分の人生をより豊かなものに創造していっていただければと心より願っております。
【自律訓練法の応用編:心理編】
自律訓練法には、標準訓練のあとに「応用編」として「心理療法」の分野が続きます。
自律神経失調症などの「心身症」の領域は「生理学的な領域」と「心理学的な領域」が相互に影響を与えあってバランスが崩れているものです。
身体症状が「精神的なストレス」によって悪化している場合には、後半にある「応用編」を導入していきます。
この「応用編」はすべて、前半の「標準練習」がマスターできた後に行うことになりますので、まずは身体全体をリラックスした状態に、自分でコントロールできるようになることを目指しましょう。
「応用編」には次のような練習があります。
【ビジュアライゼーション:視覚化の練習】
これは標準練習を行ったのちに、心身ともに落ち着いた状態で、思い描きたいものを心のなかではっきりと視覚化するトレーニングです。
今の自分に必要な「心地よい対象」(風景・もの・人物など)を、ご一緒に相談しながら、いくつか設定した後で視覚化のトレーニングを行います。
目を閉じた状態で、暗い背景のなかに立ち現れる「色彩」を見るという練習もあります。
これらの練習は、心を統一する「集中力」のトレーニングにもなります。
【アファメーション:言葉による練習】
この練習も標準練習を行い、リラックスした状態で行いますので、標準練習をまずはマスターしましょう。
いまの必要な言葉、あるいは文章をご一緒に作成し、リラックス状態で、肯定的な内容を潜在意識に種として蒔き、日々育てていく練習です。
「アファメーション affirmation」とは、ラテン語の「アフィルマレ(affirmare: 肯定する)」という語源からきている言葉で、自分に肯定的な言葉をかけることを意味しています。
適切な「言葉」や「文章」をつくって毎日繰り返すことで、心のベクトルを肯定的な方向へ定め、「新しい言語神経」を毎日少しずつ育てることを目的とします。
無意識のフィルターによって遮断されている「肯定的な世界像」を取り戻していく作業となります。
特に「応用編」は、その方独自の「ストレス反応」を自覚していただくことで、その背後にある心の傷を回復し、それによって生じた思考の片寄りやこだわり修正して、「より豊かな全体像」を復元していくプロセスとなります。
「応用編」の技術もまた、いちどマスターすれば、ご自分で一人でも応用して使いこなせるようになっていきます。
ただし、こうした技術が「習慣」になるまでには、淡々と繰り返し練習することが必要です。
毎日、反復練習することで「新しい脳神経」を育てていくことが、このセラピーの効力を発揮するための鍵となります。
「新しい脳神経」とは「休息型」「回復型」の神経回路のことです。
あらゆる自然現象は、活動と休息、男性原理と女性原理、陰と陽から成り立っています。
「活動型」が悪いわけではありません。「休息型」の神経回路が弱っていることが問題なのです。
この自然なメリハリ、豊かな柔軟性と調和を回復することが、「自律訓練法」が示している「健康回復の基礎」となります。
ご自分の中に本来ある自然なリズムを、この機会を活かしてご一緒に回復していきましょう。