「睡眠」×「感染症対策」

今年のお正月休み、皆さまはどのようにお過ごしでしたでしょうか?

今回のコラムは、冬になると猛威をふるう「感染症」と「睡眠」の深い関係についてお話したいと思います。

 

自分の「睡眠」の質を知りたくて、去年の秋にこんなものを買いました。

これは、心拍数をもとに睡眠の時間と質を計測できる時計です。

ストレスと炎症の関連を調べている研究者の友人が、「意外に優れているんだ」と感心している様子だったので私も購入してみたのですが、期待以上の性能で毎朝、自分の知らない夜の体調を知るのがとても楽しみとなっています。

そして、自分の睡眠状態を観察しているうちに、日中の気分が、前夜の睡眠状態に影響を受けていることが細かくわかって驚いています。

 

毎朝、目が覚めると携帯に情報がこんな風に掲載されます。

 

「睡眠」に興味をもったのは、かれこれ25年以上も前のこと。自然療法士を目指していた頃のことです。

 

自然療法学校の初日に耳にした言葉

「この世で最も効力のある薬は何か?」というドクターの問いに端を発します。

 

皆さんだったら何と答えるでしょうか?

 

その答えは、そうなのです、「睡眠」だったのです。

 

睡眠時には、私たちに必要な「天然の薬」が、自分の体調に合わせて必要な分だけ体内から分泌されます。

 

そんな天然の優れた薬が、毎晩、体内で分泌されるのであれば、セラピストは、それを妨げる要因を除去していくために働けばいいということになりますね。

 

この印象が強烈に残ったからかもしれませんが、その後の私のセラピーの大きな方向性は、よりよく眠れるような環境づくりと体質づくりへと向けられていきました。

 

耳鼻咽喉科のクリニックで働き始めてわかったことの一つに、何らかの身体症状で苦しんでおられる方たちは、同時に睡眠障害をお持ちの場合が非常に多いということ。

 

睡眠の質と量の確保は、治癒に向けて最も重要な課題となります。

 

 

さて「睡眠」はまだ科学的にも解明されていない謎が多いのですが、明確にわかっていることもあります。

 

睡眠には様々な質があるのをご存知でしょうか?

 

まずは「睡眠の2つの層」があるという基本的な内容からご紹介いたします。下の図をご覧ください。

 

上の部分から順に

①「覚醒」:目が覚めている状態です。夜中、目が覚めると時計には数分間に渡る覚醒状態が記録されることになります。

②「レム睡眠」(夢を見ている状態):波が2番目に高いオレンジの部分。睡眠の後半になるほど長く現れますね。

③「ノンレム睡眠」(脳が休息している状態):寝た直後から前半にかけておもに現れます。この表では、ノンレム睡眠は「浅い眠り」ステージ1~2、「深い眠り」ステージ3~4という風に細かく分けて表示されていますね。

 

睡眠の謎は科学的にはまだ完全に解明されていませんが、いまのところわかっているのは、睡眠は大きくわけて「レム睡眠」と「ノンレム睡眠」に分けられており、眠りの深さに応じて自然界からの恩寵が開示され、知らないうちに自然の恵みが私たちに授けられているということです。

 

今回は、そのなかでも「感染症対策」と関連が深い「ノンレム睡眠」に注目したいと思います。

 

 

まず「ノンレム睡眠」の特徴を浮き彫りにするために、まったく異なる質をもつ「レム睡眠(夢見の状態)」を比較してみましょう。

 

「レム睡眠」の「レム」という言葉は、Rapid Eye Movement (急速眼球運動) の頭文字である ”REM”からきています。

レム睡眠は夢見の状態を意味していて、身体は寝ているけれど、眼球が素早く動き続け、脳は活動している状態です。

 

悪夢を見ていて汗をかいたりするのは、レム睡眠の時ですね。このときには交感神経も激しく活動しています。

夢とは知らず、夢の中で必死に走ったり慌てたりしていると、目覚めたときにはすっかり疲れていた…なんていうことを経験したことはないでしょうか?

それは寝ていても、脳も交感神経系も活動中なので、心臓や肺などの内臓が連動して働いているからなのです。

 

さて、この「レム睡眠」に対して、「ノンレム睡眠」は目も動いておらず、「脳が休んでいる状態」です。

 

つまりこの二つの段階の大きな差は、次のようになります。

「レム睡眠」では「脳は活動中」

「ノンレム睡眠」では「脳は休息中」

 

私たちが「疲れている」というとき、「身体の疲労」か「脳の疲労」か区別して対策を考える必要があることがわかりますね。

「脳の疲労」であれば「ノンレム睡眠」が必要で、単に横たわっているだけで「疲労感」は抜けないということになるわけです。

 

次に、「ノンレム睡眠」の様子をさらに詳しく見てみましょう。

私が使用している時計では、この「ノンレム睡眠」が「浅い睡眠(レベル1~2)」と「深い睡眠(レベル3~4)」の2種類に大別して表示されます。

要するに先ほどの図では「レム睡眠」を細かく1~4のレベルに分けていましたが、私が使用している時計では、「浅い」「深い」の2通りで表示しているということですね。

つまり「ノンレム睡眠」も眠りの深さによって「質」が異なるということなのです。

少し見づらいかもしれませんが、こんな感じで表示されます。

「ノンレム睡眠」における「浅い睡眠」では脳も休息状態に入り、さらに身体が徐々にリラックスして動作が減ってきます。この段階では物音がすると簡単に目が覚めます。呼吸と心拍数はこの段階で減少していきます。

 

そして「ノンレム睡眠」の「深い睡眠」では、呼吸がさらに遅く、筋肉もより弛緩し、心拍数は通常より規則的になります。

この「深い眠り(レベル3~4)」は、身体の疲労回復、記憶や学習の助けとなることがわかっています。

そして何よりも大切なのは、この「深い睡眠」こそが「免疫システムの働きをサポートする」ということなのです。

 

 

自然療法学校のドクターが初日に言った言葉の意味はここにありそうですね。

この深い眠りが十分にとれたときには、ぐっすり眠れた感覚があり、朝とても頭がスッキリしていて、気力が充実しているという実感が得られます。

 

 

睡眠の前半に訪れるこの「ノンレム睡眠」は、先ほども示したように浅いレベル1~深いレベル4まで区別できますが、実は早い人ですと20代~30代から徐々に減少をはじめ、50代からはレベル4が見られなくなるという報告すらあります。

高齢者の中途覚醒は、ノンレム睡眠の減少と関係があることは明らかですね。

 

ただし、高齢になったら中途覚醒は常識だと思い込いこんで諦めるのはよくないとわたしは思っています。

ある50代の男性は、副交感神経系を鍛えながら精神面でのストレスを減らしていったところ、中途覚醒は明らかに減ってきて、毎晩7~8回の覚醒回数が、数か月後には早朝1回まで減ったという喜ばしい症例もあるからです。

深い睡眠を可能にする「副交感神経」は鍛えることが可能だということなのです。

 

さて、免疫力との関連で考えると、睡眠の「質」はもちろん「深い」に越したことはないのですが、睡眠の「長さ」も大切だとされています。

睡眠の「時間数」は「感染率」に比例しているとの研究結果があるからです。

一般の風邪、インフルエンザ、肺炎は、先進国における死因の上位を占めています。現在では新型コロナウイルスの感染症もこれに加わります。

たとえばインフルエンザにかかったときには、全身に力が入らなくなって、何もする気がおきたくてただベッドの中で休むしかなくなるはずです。

身体は眠ることで自分を治そうとしているわけです。睡眠と免疫系との関連が見てとれますね。

 

身体に病原菌が入れば、睡眠はあらゆる武器を免疫システムに送り込み、身体が完全に寝ているあいだに、病気と闘うわけです。

睡眠が足りないと、身体を守ることができなくなるのは、睡眠中の免疫システムの活動を停止してしまうことになるからなのです。

 

 

さらに興味深いのは、ワクチンとの関係です。

インフルエンザのワクチンを受けたとしても、その抗体反応を強く示すのは、やはり十分に7~8時間の睡眠をとっている人たちだという実験結果があります。

もちろん例外(いわゆるショートスリーパー)もあるでしょうけれど、一般的にはワクチンを有効活用するためにも、十分な睡眠は欠かせないということになりそうです。

 

 

いずれにしても、感染症の種類を問わず「質のよい睡眠を十分にとる」ということは、とても大切な感染症対策になるはずです。

睡眠という人間にとってごく自然なこの活動を、もう一度見直して、よりよい生活習慣を身に着けていただければと思います。

 

不眠症対策に関しては、ネットでも色々あると思うので、そちらをご覧になってみてください。

軽い運動、寝る少し前にお風呂に入る、寝酒は禁止、寝る前にスマホやPCの画面は見ない、就寝と起床の時間帯を同じに保つ、室内の温度管理など、そして心配事など心に負担がある場合は、ストレス解消が大きなテーマとなります。

 

残念ながらいくつかの論文によれば、睡眠薬によっては、この「深い眠り」の質は保証されないという結果がでていますので、急性の睡眠障害の場合は仕方がないとしても、できれば薬に頼らず、日ごろから自然な睡眠を心掛けていただければと思います。

 

 

最後になりましたが、精神面でのストレスが、不眠症の原因になることはよく知られています。

 

自律訓練法をご一緒に学ばれている方の中にはすでに実感できる方もいらっしゃるかもしれませんが、音声データを聞くことで、思考のオンとオフを繰り返すことになり、思考を「オフにするための回路」を強めることができるようになっていきます。

一日数回、数分の地道な訓練が、睡眠の質を上げてくれるようになります。

 

自律訓練法を知らない方も、寝る前には、思考や感情のスイッチをオフにして「脳の休息モード」を意図的に作ってあげましょう。

思考と感情をいかに「オフ」にできるかが、心身の老化と病気を防ぐ鍵となるのです。

 

 

 

おてんとう様と共に目覚め、星々と共に夢の世界に入っていくという、ごく自然な睡眠と覚醒のリズムを思い出すこと。

質の良い睡眠をとることこそが、もっとも根本的で、かつお金のかからない「感染対策」なのです。

 

 

さて、今年はどんな年になるのでしょうか。

何が起ころうと、私たちの内側には、自分を守るだけの自然治癒力が内臓されていることを忘れずに過ごせたらと思います。

 

寒い日が続きそうですが、安らかな眠りが皆さまのうえに毎晩訪れますように…