「迷走神経」×「病は気から」

前回のコラムに引き続き、「免疫力」をいかにアップさせるかというテーマについて、

今回は「迷走神経」(副交感神経)との関連から、もう少し詳しくお話ししたいと思います。

 

春は毎年、新しい変化とともに始まるものですが、

今年の春、COVID-19 (新型コロナウイルス感染症) の流行によって、人類は新しい問題に直面せざるをえなくなった様相を呈しています。

 

先が見えない状況には、誰もが不安を感じるものですよね。

 

不安や怖れは、アラームとして、心の大切な機能ではあるのですが、

アラームが心の中で長期間なり続けると、いつのまにか慢性のストレス状態に陥り、私たちの心身を蝕んでいくので注意が必要です。

 

「病は気から」と昔から日本ではよく言われていますが、

長期にわたる心のストレス状態が、実際に身体にマイナスの影響を及ぼすということ、まさに「病は気から」の根拠が、

20世紀の後半、科学者たちによって語られるようになってきました。

 

というわけで、今回のテーマは「心と体のつながり」についてのお話でもあります。

    

 

そもそも「免疫力」というものは「防衛力」を意味しています。

外部から異物(たとえばウイルス)が侵入したときに、免疫系は外敵から身を守るために戦い、体内を平和に保つために働いてくれています。

そんなときに白血球が敵を倒すために出動され、活躍してくれていることは、確か大むかし理科の時間に習いましたね。

戦いの最中は「交感神経」が活性化されており、熱を発したり、それを痛みとして感じたりしています。

でも、それは戦いが行われている正常なリアクションであり、証拠でもあるのです。

 

一方、体内で敵が退治され、戦いが終了したときに、

「もう闘わなくても大丈夫ですよ〜」「戦いは終わりましたよ〜」という戦い終了の合図を出すのは「副交感神経」の役割です。

もう少し詳しくいうと「副交感神経」の70%をしめる「迷走神経」が、戦い終了の合図を「脳」に伝えます。

 

交感神経が自動車のアクセルだとすれば、副交感神経はブレーキを意味しますが、

副交感神経の一部である「迷走神経」もまた、「戦い終了の合図」=「ブレーキ」を踏む役割を果たしてくれます。

 

では次に、あまり聞き慣れないこの【迷走神経】についてのお話をしたいと思います。

 

 

名前だけを聞くと、なんだか頼りなさそうな印象のこの【迷走神経】

ただこの神経は思いのほか、私たちの健康維持に大きな働きをしてくれているんです。

「迷走神経」は ラテン語で “Nervus Vagus” と書きます。

“Vagus“ という単語が「放浪」を意味することから日本語では「迷走」神経と訳されたようです。

この「迷走」という単語を見るたびに、もうすこし良い訳はなかったのかしら、などど私は思ってしまうのですが、

確かに、この神経は多岐に枝分かれしていて、非常に複雑な走行をする神経なので、まるで「迷走」しているように見えなくもない…(笑

となれば、迷訳ではなく、名訳ということになりますね。

 

余談はさておき、この神経は別名「第10脳神経」とも呼ばれていて、脳神経のなかで唯一、腹部にまで達しているため、

脳と臓器との間での交わされる情報伝達に、ひと役もふた役も買っています。

 

「迷走神経」も、残りの副交感神経と同様に「交感神経」と拮抗しながら働いていて、

支配しているのは、心臓、胃腸、声帯、消化腺活動、分泌などの領域。

 

とても重要な役割を果たしていることが伝わってくると思います。

 

 

さて、話を「免疫系」との関連に戻しますが、身体に危険な異物が侵入してきたときに、白血球がそれを退治するために戦ってくれて、

それが終了したときに、この「迷走神経」が「終了の合図」を「脳」に送るんでしたね。

 

ところが問題は、この「迷走神経」が、「長期のストレス」や「加齢」によって弱ってしまった場合です。

弱ってしまった迷走神経は、この戦い終了の合図を、的確に出すことができなくなってしまうからです。

 

戦い終了の合図が出ないと、どうなるかと言えば、体内の白血球のすべてが活性化してしまい、

それが血管をふさぎ、血流を妨げ、その先にある細胞が酸素と栄養を受け取れなくなって…

こうなるともう、白血球による炎症反応、つまり防衛反応は、適切なものとは言えなくなってしまいます。

イメージとしては、敵がいなくなった戦地で、終戦の合図が来ないために、味方にまで銃を向けて撃ち続けているような状態。

この過剰になった炎症反応が「免疫力低下」に大きな影響を及ぼしてしまうわけです。

 

したがって「免疫力をアップ」させるには、この「迷走神経を元気にする」必要があります。

 

多くの場合、長期化したストレスによって迷走神経は弱ってしまいますから、

「ストレス軽減」は「免疫力アップ」にダイレクトに貢献することになるわけです。

 

 

さて、白血球の見境なしの放出というこの異常な事態に、「サイトカイン」という情報伝達を担当するタンパク質が関与していることが、

コロラド大学のリンダ・ワトキンス博士によって、21世紀に入る少し前に解明されました。

 

「免疫系」と「迷走神経」とのつながりが解明されたのは、割と最近のことなんですね。

 

それまでも、科学者たちは、たとえば発熱や体重の減少、身体組織の損傷、疲労かやうつ状態にいたるまで、

病的症状の多くが「病原体」のしわざではなく、「免疫系」が起こしているのではないかと薄々感づいていましたが、その根拠をつかめずにいたのです。

ワトキンス博士によって、その予感がようやく証明されたわけです。

 

彼が証明したのは、繰り返しになりますが「迷走神経を活性化」することで、過剰なサイトカインの産出が劇的に減少するということ。

つまり「迷走神経」(副交感神経)が、「炎症の強力なブレーキ」になっていることでした。

 

「迷走神経」(副交感神経)が活性化するのは、緊張から解放されて、心が穏やかになり、安心して落ち着きを取り戻したとき。

「副交感神経」は、「交感神経」による緊張や興奮に「ブレーキ」をかけて、平和な状態を作り出す神経でしたね。

 

ですから「免疫力アップ」を目指して「戦うぞ~!」と「頑張り」続けたり、

心配や怖れによって「緊張」するのはむしろ逆効果!

 

「免疫力を強化」させるためには、「心穏やか」に「安心して過ごすこと」が大切だということになります。

緊張や興奮が悪いわけではなく、無意識のうちにその状態を長いあいだ続けてしまうことには注意が必要だということです。

 

今回のウイルス騒動、いつまで続くかわかりませんが、たとえ長期化したとしても、

心穏やかに過ごすことは、健康維持のためには、ことのほか大事だということになるわけです。

 

 

こうしてみていくと「病は気から」というのは本当のことだったということがわかります。

のんきなことを言っていられない、こんなご時世だからこそ、

肩から無駄な力を抜いて、心穏やかに、やるべきことに心を集中させ、生活にメリハリをつけて充実させていきましょう。

 

今だからこそ、できることがきっとあるはずです。

もちろん心のケアだけでなく、うがい・手洗い、質の良い充分な睡眠といった身体のケアも、基本的な予防として大切なことですね。

 

      

最後になりましたが、「迷走神経」(副交感神経)は、たとえ弱ってしまっていても、次にようなことを習慣づけることで、育んだり、強化したりすることができます。

参考にしてみてください。

 

◉一日に数分でもいいので、心穏やかに過ごす時間をとること

◉否定的な思考の癖を、肯定的なものに変化させていくこと

◉ゆっくりと呼吸すること

◉「自律神経のトレーニング」をされている方は、1日2~3回、淡々と練習をつむこと

◉日記をかいて、心の整理を毎日きちんと行うこと

◉自分に優しくすること

 

お時間のある方は、過去のコラムも是非、参考になさってみてください。

このような時であるからこそ、どうかご自愛くださいね。

 

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