「フォーカス」×「集中力」

9月に入ってからは、少し気温もさがり、とくに朝晩は秋の気配を実感できる今日この頃です。

季節の変わり目ですが、皆さんはいかがお過ごしでしょうか。

先日『心を強くする』という本が、以前お世話になった飛鳥新社から40周年記念ということで送られてきました。

「世界一のメンタル:50のルール」という副題がついています。

この本は大阪なおみのコーチだったサーシャバイン氏によって書かれたもの。

そういえば、大阪なおみの全米オープン決勝進出に多大な貢献をもたらしたことで話題になりましたね。

著者であるサーシャバイン氏は、33歳のセルビア系ドイツ人です。

ドイツでは、スポーツ選手のメンタルトレーニングにも、実は「自律訓練法」の原理が頻繁に取り入れられています。

というわけで、「自律神経のトレーニング」をする際に参考になるような何か良いヒントはないかしら…… と思いながらパラパラページをめくっていると、

「フォーカス×集中力」という項目が目に飛び込んできました。

著者サーシャバイン氏は「フォーカス×集中力」という項目のなかで

「練習ではとにかく球数を多く打て」と教えるテニスコーチが多いなか

彼はあえて打つ球は少なくていいから

「フォーカス×集中力」をもって課題に適した練習をした方がよいと主張しています。

「数」よりも「質の向上」にどれだけ気持ちを集中できたかという点に、彼は注目するわけです。

実際の試合でも「高度の集中力」をどれだけ維持できるかが問われますから、これは大切なポイントですね。

なおみも試合中に、集中力が途切れることが何度かあったらしく、もし本当に成長したかったら「フォアハンドと同じくらい、集中力を維持する練習」をした方がいいと伝えたという逸話がのっていました。

確かに、数をこなすだけでは、同じ神経や、同じ筋肉を鍛えるだけで、より強くなるために必要な「新しい体験」はできません。

漫然と同じことを繰り返しているだけでは、質の向上が得られないのは、どの世界でも同じなのでしょう。

そこで必要になるのが「フォーカス」すること。

フォーカスするというのは、視点を一点に定めるということですよね。

伸ばしたいポイントを徹底的に細かくフォーカスして、最高レベルで集中する。

この「集中力×フォーカス」がそろった状態を、サーシャバイン氏は「トレーニング」と呼んでいるそうです。

私が皆さんにお伝えしているのも、自律神経を鍛えるための「トレーニング」です。

自律神経を鍛えるこのトレーニングは、休息のための練習であり、無駄な力を抜いてリラックスするためのトレーニングなので、

スポーツのトレーニング法とは異なる点もありますが、「集中×フォーカス」が重要だという点ではとてもよく似ています。

「自律神経トレーニング」では、一日3回ほど練習できたら理想的と言われています。

現在、私の音声データを使って練習中の方や、すでにご自分の声で毎日、トレーニングを積んでいらっしゃる方もおられますね。

新しい神経回路を強く育てるための練習なので、繰り返し練習することがとても大切です。

でも、もしも練習に慣れて、練習を始めた頃のような新鮮さを失って単なるルーティンワークになっているとしたら、それは「集中力×フォーカス」が弱まっていると考えることができるかもしれません。

「自律神経トレーニング」においては、理想的な状態で集中できている状態を「受動的集中」という言葉によって説明されています。

「受動的集中」とは、外側の何かに視点を合わせる「能動的集中」とは異なって(例えば外側のボールに集中するなど)

「受け身の状態で集中すること」、つまり、自分から積極的に努力せずに「内的な感覚に集中」している状態のことをいいます。

「他力」というテーマで以前、お話ししたと思うのですが、内なる治癒力に全身をゆだねる感覚で行いましょう。

大いなる力にゆだねる姿勢と、トレーニング内容に集中していく姿勢は矛盾することはありません。

なぜ「意識が集中していて」+「身体がリラックスしている」状態を

あえて育てる必要があるのかといえば

多くの方たちが「集中すること」を

「頑張ること」あるいは「緊張すること」として体験されているからです。

両肩から余計な力がぬけた「爽快な集中」もあるのです。

次のような順で、新しい神経回路を育てていただければ思います。

①まずはさておき「落ち着いて」
②「余計な力を抜き」
③それぞれの課題に「フォーカス」しながら
④ほんの秒数のあいだ「集中」する

雑念に気をとられていることに気づいたら、その都度、そっと意識を課題に戻していきましょう。

「そっと意識を課題に戻すこと」

それこそが「自律神経トレーニング」における

「集中×フォーカス」の極意です。