先月、東慶寺で行われた座禅会に参加してきました。
今年の梅雨は雨の日が多くて紫陽花も菖蒲もとてもつややか。

東慶寺は鈴木大拙のゆかりの地。
坐禅のあとは、鈴木大拙先生の『日本的霊性』をひもときながら
京都からお越しいただいた大谷大学の木越康先生による講話がありました。
テーマは「霊性の扉 ー他力と大悲ー」
禅のお坊さんたちは日々、座禅を組みながら、心の奥深くから浮上してくる雑念を意識化しながら、心を浄化する修行をされています。
雑念のなかには日々の心配事から、自分では覚えていないようなはるか昔、幼児期にプログラミングされた内容まで含んでいますが、いずれにせよ、彼らは心を清めることで、静けさの中心、光明の世界へアクセスしようと日夜、修行をされているわけです。
修行の段階にも、当然のことながらその時々によって課題があります。
そのなかで今回のテーマである「他力」はとても重要なポイントとなるようです。

「自力」というのは、自分の力で頑張ることですね。
自分の判断で状況をより良くするために、周囲の環境に自ら(みずから)働きかける積極的な態度のことです。
一方、「他力」は、他の人の力を借りること、自分で頑張るのを手放すこと、積極的な働きをやめることを意味しています。
なにか信仰の対象があれば、その神様や仏様が自分を助けてくださる、といった境地の場合に、この「他力」という言葉を使います。
その場合、前提として、信仰している神さまや仏さまの方が、自分よりも優れた力をお持ちだ、という価値判断が含まれています。
つまり「自己の力」の評価を一度相対化して、視点を拡大し、自分よりももっと大きな力に自分を託す、お任せするという姿勢を意味しています。
心の中での、この隠れた「自己否定」があってはじめて「霊性への扉が開く」のだと鈴木大拙は主張しています。
現代的な表現で言い直すならば、自分の努力のレベルの限界を認識できたときにはじめて、自分の努力をはるかに上回るパワーの源泉にアクセスすることができますよ、
一旦、自分の力の限界を認識して、目に見えないさらにパワフルな力に任せる態度が、あなたの人生を好転させるポイントですよ、ということになります。
鈴木大拙先生のこの本によれば、日本人の霊性が花開いたのは、貴族が浄土を夢見て贅沢三昧をしていたふわふわした平安時代ではなく、苦境に追い込まれた鎌倉時代だったといいます。
本当に苦しみの中で、人は自分の力の限界を知るということなのでしょう。
そのような状況下では、自分よりも力のある何者かに力を借りるという態度が自ずから生じてくるわけです。

ところで、この話をわたしがお伝えしたかったのは、特定の信仰対象がない場合でも、
この「他力という心の状態」が、健康を維持するためにも必要な態度だと感じているからなのです。
疲労を回復し、健康を維持するためには、常に「リズム」と「バランス」がポイントになります。
「自力」がエンジンを全開にして「頑張る」態度だとすれば、
その後には、必ず活動をやめて「休息」する段階がやってきます。
専門的な視点から説明すれば、この「自力」と「他力」のテーマは、
交感神経と副交感神経のバランスを整えるというテーマに通底するところがあるわけです。
自然界は、かならずこの「オンとオフ」のリズムから成り立っていますから、この「休息」の段階をスキップしてしまうと
価値のあるはずの「頑張り」が、逆に身体に負荷をかけて、健康のバランスが崩れてしまうということになりかねません。
ではこの「休息」のときに、何に対して「他力」の態度をとればいいのでしょうか?
それは身体に備わっている「自然治癒力」という「力」に対してです。
手術で傷を負ったとき、それを直してくれるのは、医者でも薬でもなく、
自分の「努力」でもなく、身体に備わっている「自然に回復する力」です。
それは「自ずから」(おのずから)立ち現れてくる力であり、
私たちの努力によって「自ら」(みずから)立ち上げることのできない力なのです。
そんな素晴らしい自然の力にアクセスするために私たちに必要なのは
「力を抜くこと」「リラックスすること」
そして、その力に完全に身を任せる姿勢をとることなのです。
そのために、さしあたって私たちにできる最大のことは
その力の発動を妨げる「過度の緊張」を取り除くこと
「自力」と「他力」のバランスを取り戻すこと
この2点ということになるわけです。

私が皆さんにお伝えしている「自律訓練法」や「ゆるぽか内観法」は
その「過度の緊張」を取り除くための練習であり、
「自然治癒力」にアクセスするための扉を開き、
「自然治癒力」が「自ずと」(おのずと)立ち現れるような状態をつくります。
つまり「他力」のための練習でもあるのです。
自律神経トレーニングは
繰り返し練習するという「自力」と
脱力してお任せするという「他力」の両方がセットになっていますね。
そこが難しさでもあり、醍醐味でもあります。
何度も練習をしていくうちに、
力を抜いて、ハンドルを手放すという「他力のコツ」がつかめるようになってくるはずです。
上手にできたときによくその状況を記憶しておいて、その記憶をたよりに練習を続けてみてください。
